
ファンマーケティングにメタバースを活用してる海外事例5選
近年、既存のファンのロイヤリティを上げることで、継続的なリピーターになってもらい、SNS等での口コミなどに繋げていく「ファンマーケティング」という手法が注目を集めています。
ファンマーケティングの手法としては、TwitterやInstagram、TikTok等のSNSを有効に活用する方法のほか、オンラインでファンが集まるコミュニティサイトの構築や、リアルな場でファンミーティングを実施するなど、多様な手法が存在します。
ファンマーケティング自体がまだ発展途上の手法ではありますが、海外の有力ブランドに目を向けると、昨今話題を集めるメタバースを活用したファンマーケティングの事例が早くも増えてきています。
3DCGをベースとしたバーチャル空間を構築するメタバースは、ブランドやコンテンツの世界観を再現した上で、世界中のファンと双方向の密なコミュニケーションをオンライン上で取れる特性があるため、ファンマーケティングとも相性が良いといえます。
今回の記事では、海外での取り組みを中心に、ファンマーケティングの用途でメタバースを活用している事例を紹介していきます。
スポーツ:マンチェスター・シティ
マンチェスター・シティはイングランドのプレミアリーグに所属するプロサッカークラブです。
マンチェスター・シティは、2021年11月にソニーグループと次世代のオンラインファンコミュニティの実現とファンエンゲージメントの最大化を目指したパートナーシップを発表しています。
https://www.sony.com/ja/SonyInfo/News/Press/202111/21-055/
こちらの取り組みは執筆時点(2022年11月)ではまだ開発中となっていますが、内容としてはマンチェスター・シティのホームスタジアムであるエティハド・スタジアムをバーチャル上に再現した上で、ファン同士が交流できるバーチャルならではの体験価値の創出を目指
すと発表されています。サッカーを始めとするスポーツチームは、根強いファンがいる業界ですが、世界中にいるファンにとってはイングランドにあるエティハド・スタジアムに直接行くことが出来る機会は限られています。そのため、バーチャル上だとしても自分が応援するクラブの世界観とコンテンツを体験できる本取り組みはファンにとっては魅力的だといえます。
また、本取り組みのプレスリリース内では「メタバース」という言葉は使われておらず、プレスリリース内には、「世界のファンとエンゲージメントを高め、チームをいつも近くに感じてもらえるための取り組みを重要視しています」といったコメントが掲載されており、そのテクノロジーとしてバーチャル技術が採用された形となっています。
あくまでファンとのコミュニケーションをより適切に実現するにはどうすればよいかが主軸であって、メタバースを実現することが目的化していない点でも、非常に本質的な取り組みであると感じました。
エンタメ・音楽:K-POP
2つ目の業界として取り上げるのはエンタメ業界のK-POPにおける事例です。
K-POPはBTSなどのグループを中心に世界中で人気を集めていますが、熱心なファン集団を意味する「ファンダム」が各グループ毎に構築されているなど、ファンコミュニティの代表例としても有名です。
そんなK-POPのメタバース活用の事例としては、韓国のNAVER Z Corporationが運営する「ZEPETO」とのコラボ事例がいくつか出てきています。
一例として、人気グループの「I T Z Y」が、ニューアルバム「CHECKMATE」の発売に合わせて、アルバムのコンセプト衣装をZEPETO上のアバターが着れるアイテムとして展開する取り組みを行っております。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000103047.html
服だけでなく、シューズ/ヘア/イヤリング/ネイルと、全身のアイテムをアバターが纏えるようになっており、コアな「I T Z Y」ファンにとってはぜひ試してみたいと思える体験まで落とし込めています。
ZEPETOは元々アバターメイキングサービスとしてリリースされた背景もあり、細かい箇所まで調整できるアバターのカスタマイズ機能を活用したファンマーケティングの事例が増えている印象です。
アパレル:NIKE
続いては、アパレル業界からNIKEの事例を紹介します。
NIKEはランニングアプリの「NIKE Run Club」や、スニーカー専用の直販アプリの「NIKE SNKRS」など、デジタル上での顧客接点の創出に積極的なブランドです。
こうした取り組みの背景として、NIKEは小売店経由ではなく直販の比率を上げてD2Cブランドにシフトすることを目指しており、そのためにテクノロジーを活用することで、消費者とのつながりを深める方針を掲げています。
実際に、NIKEはメタバースやWeb3といった先端テクノロジーを活用した取り組みにも非常に積極的です。メタバースの活用事例では、Robloxというプラットフォーム上に展開しているバーチャルワールド「NIKELAND」の取り組みが有名です。
「NIKELAND」は、オレゴン州にあるNIKE本社を意識したデザインの自社ワールドとなっており、陸上トラックやバスケコートなどでミニゲームを出来るような空間になっています。
https://www.roblox.com/nikeland
本取り組みの面白い点として、アバターが着ることが出来るNIKEロゴ入りのウェアやシューズも展開されているのですが、こうしたアイテムを着るとアバターが走る速度やジャンプ量が2倍になるといったギミックが仕掛けられています。
こうした体験を通じて、「世界中のすべてのアスリートにインスピレーションとイノベーションをもたらすこと」をミッションに掲げるNIKEブランドの世界観を、ユーザーが遊びながら感じることが出来るようになっているのです。
「NIKELAND」には、22年3月時点で195カ国から約670万人が訪れたという発表もされており、物理的・地理的制約を超えて全世界のユーザーにブランド体験を擬似的に提供することができるというメタバースの特性を上手く活用したファンマーケティングの事例といえます。
メディア:TIME
次に紹介するのは、アメリカの有名なニュース雑誌「TIME」の事例です。
TIMEは、2018年に経営不振を受けて事業売却を行い、現在はセールスフォース・ドットコムのCEOであるマーク・ベニオフがオーナーとなっています。
TIMEは近年デジタル活用を積極的に進めており、2021年9月には「TIMEPieces」というNFTコミュニティを設立して、デジタルアーティストとコラボした作品を発表しました。NFTについては、初期はデジタルアート的な価値で話題になるケースが多かったですが、最近は企業が自社のファンクラブへのデジタル会員権やロイヤルティプログラムの一環として提供する事例が徐々に増えてきています。
TIMEによるメタバース活用は、この「TIMEPieces」のNFTコミュニティとリンクしたものとなっています。具体的には「The Sandbox」というプラットフォーム上に、TIMEPieces ホルダーにユニークな体験を提供する包括的な環境として、バーチャルな「TIME Square」を構築することが発表されています。
この施設は、ディスカッションやイベント、TIMEスタジオプロジェクトの上映、教育的体験へのバーチャルアクセスを提供し、TIMEPieces コミュニティに貢献する場となるようです。
NFTとメタバースは技術的には異なる分野ですが、ファンマーケティングをデジタル上で促進していく施策としてはシナジーがあるため、TIMEのように両方を組み込んだ先進的な事例が少しずつ増えています。
小売:ウォルマート
最後に紹介するのは、アメリカの小売大手であるウォルマートの事例です。
ウォルマートは2022年9月にRoblox上に自社のバーチャル空間を公開したことを発表しています。
本取り組みの特徴としては、テーマが異なる2つの空間をオープンしていることです。
1つ目の「Walmart Land」は音楽などのエンタメや、衣服・化粧品などのファッションをテーマにしたエリアになっており、DJブースやローラースケート場などが設けられています。
もう一方の「Universe of Play」は玩具がテーマのエリアで、バーチャルトイを集めるゲームや、ホバーボートの乗り物で移動できる空間が展開されています。
ウォルマートのような小売業の会社がメタバースに進出するのは少し意外かもしれないですが、狙いとしてはZ世代など若年層に向けたエンゲージメント向上があるようです。
実際に、Roblox上での2つの空間も、単に商品紹介や購買促進をするバーチャルショールームのような使い方はされておらず、Z世代に人気のブランドやアーティストとコラボしながらユーザーに楽しんでもらえるような体験を提供している点が特徴的です。
本取り組みは、既存のファン向け施策の意味合いは薄いものの、新たな層のエンゲージメントを上げてファン化を促す施策という意味では、ファンマーケティングの一例といえるかと思います。
AmazonのようなECサイトが広く普及する中で、従来のリアルを主体とする小売企業が苦戦しているケースが多いですが、ウォルマートは積極的にテクノロジーを活用して顧客体験を向上させることで、業績を伸ばしていることでも有名です。今回のメタバース活用についても、テクノロジーの活用によって顧客とより深い繋がりを持つという戦略的な狙いが背景にあると考えて良さそうです。
まとめ
今回の記事では、海外企業におけるファンマーケティング施策の一環としてのメタバース活用の事例をご紹介しました。
今回紹介したように、エンタメやアパレル、小売など、幅広い業界でファンマーケティング×メタバースの活用事例が出てきています。共通項としては、どのブランドもテクノロジーを使って自社の顧客と深く繋がる取り組みを積極的に推進している点です。これまで行ってきたSNSや自社アプリといったデジタル活用の次なる1手として、世界中のファンやユーザーとバーチャル上で深い繋がりを持つことが出来るメタバースという手法が選ばれているのです。
メタバースがバズワード的に盛り上がっているから取り組むというスタンスではなく、ユーザーとのコミュニケーションをどう深めるか?という観点でメタバースの活用を検討することで、ユーザーにより共感してもらい、ファンになってもらえる取り組みに繋がっていくのではないでしょうか。